特集 6
中津の新名物⁉ 明日の英気に「キモ食い」のすゝめ
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大分のソウルフードといえば、唐揚げ。そして、大分唐揚げを全国区に押し上げたホットエリアといえば中津!
鶏料理が盛んな中津ならば、きっと唐揚げだけじゃなく“内臓”も旨いに違いない……。そんな食いしん坊の嗅覚で狙いを定め、やってまいりました中津駅。
大分駅から特急電車で約50分、福岡・博多駅から電車で約1時間の「中津駅」。
“鶏の内蔵”は、東京では「レバー」や「ホルモン」といいますが、大分では「肝(キモ)」呼びが一般的。明日の英気を養うため、今宵は心ゆくまで中津で“キモ食い”を決めるとしましょう。
駅前広場では、中津が生んだ“一万円札の顔”であり慶應義塾大学創設者でもある言論人・福澤諭吉の銅像が町を見守っていました。
〈駅ちか酒場 大金星〉キモの刺身が7種類も!
“キモ食い”の舞台となる〈日の出町商店街〉は中津駅から目と鼻の先。約10店もの商店が軒を連ね、特に飲食店が多い呑んべぇアーケードなんです。噂によると「ほとんどの飲食店で鳥料理が提供されている」とか。早くも胸が高鳴ります。
まず訪れたのは商店街入口すぐの〈駅ちか酒場 大金星〉。中津初というテラス席は、冬場でもビニールシートで覆われ寒くありません。
出迎えてくれたは、「ハニカミ王子」と命名したいくらい笑顔がチャーミングな店主・伊東駿佑さん。中津生まれ中津育ちの28歳で、5年前に店をオープンしました。地元の人々の応援でなんとかコロナ禍を乗り切った苦労人でもあります。
カウンター5席、テーブル6卓。
さっそくメニューを眺めると……鶏を中心とした13種の“焼きモノ”のほか、「梅マヨきゅう」(462円)や「山芋そーめん」(550円)など10種の“ちょいとつまみ”が並んでいます。
そして何より「肉刺し」メニューが7種類もあるではありませんか!
「肉の生食文化は九州人、特に新鮮な肉が手に入りやすい大分の人にとっては特別珍しくないけど、やっぱり九州外からのお客さんは皆さん驚かれますね」
「ズリ刺し」770円。
今回は、あまり聞き慣れない「ズリ刺し」を頼んでみました。
「大分では、砂肝のことを『ズリ』と呼びます」と教えてくれた伊東さん。さっそく柚子胡椒とレモン、ネギと合わせていただきます。シャキシャキした歯ごたえは新鮮な証拠です。
「鶏レバ刺し」「鶏ムネ刺し」(ともに770円)、「生ユッケ」(1078円)などの刺身メニューがあるなかで、「ズリ刺し」を選ぶ人って結構ツウなのでは?
「そうですね、独特のコリコリ食感好きの方に人気です。歯ごたえはあるけどめちゃくちゃかたくもなく、初めての人には『こんなん食べれるんや!』と驚かれます(笑)」
まさにキモ好きにはたまらない一品。
肉刺しといっても完全な生食ではなく、刺身用鶏肉はすべて低温調理で殺菌し塩漬けされた“生ハム状態”で中津の仲卸から仕入れているそう。つまり衛生面も安心。
続いて「モモのタタキ」を。備長炭で豪快に焼き上げていきます。
鶏湯(ちーゆ)を肉にたらしてふわっと香りづけし、しっかり焼き上げることで備長炭のスモーキーな風味も加わります。
「モモのタタキ」792円。
親鳥を使っているので全体的に歯ごたえがあり、まるでスルメのように噛めば噛むほど味わい深くなります。
「鶏ハツ焼き」は独自にブレンドした塩と、鶏油をかけてじっくり焼き上げます。プリプリの食感がクセになりそう。
「鶏ハツ焼き」462円。
ところで素朴な疑問。〈大金星〉のキモは、なぜ串に刺さないのでしょう?
「うちはラーメンを出していることもあり、遅い時間にシメ目的で訪れるお客さんも多いんです。その時間だと焼き鳥が注文されづらく、工夫してみました。串ナシなどみんなでシェアしやすいし、ロスも減りましたね」
キモに合わせるオススメの酒は大分県宇佐市の〈本醸造 和香牡丹〉(1合495円)。ワイングラスで出すのが伊東さんのこだわりなのだそうです。
店舗情報
店舗名:駅ちか酒場 大金星
住所:大分県中津市島田219-11(日の出町アーケード内)
営業時間:18:00〜0:00(L.O.23:00)
定休日:不定
TEL:0979-64-7726
〈地魚屋台 ぜんちゃん〉ボリューム満点なキモを食らう。中津名物のハモも堪能
2軒目の“キモ食い”の舞台は〈地魚屋台 ぜんちゃん〉。2010年オープンの大衆居酒屋さんで、ひと皿がボリューム満点なのにも関わらず低価格。コスパ最強店として人気を集めています
国産鶏もも肉を秘伝のタレで漬け込んだ中津唐揚げはひとつからお好みの数量を注文でき、大分名物「りゅうきゅう」、新鮮な刺し身の盛り合わせなど、常時70種というメニュー数に脱帽。
ここへ行けば大分のうまいものは大抵食べられちゃいそうです。
店長の林田晋平さん(写真右)と、焼き場担当の副店長の江口さんがお出迎え。
屋台がテーマの店内は従業員みんなで壁などをDIYしたそうで、ふらっと立ち寄りやすい雰囲気。カウンター席もあるからおひとりさまも安心してどうぞ。2階には半個室もあります。
メニューに目をやると、さすがの鳥料理の多さ。さっそく“キモ食い”を……とはやる心を抑えて、まずは中津名物のハモをいただきます!
「中津名物ハモ」880円。
中津のハモは大きくて丸々しているため、トロ箱の中で魚体を折り曲げて収納されるサマが「つ」の字に見えるそう。これに由来して「つの字鱧」と呼ばれています。中津の豊前海は栄養豊かな漁場でハモの餌となる魚介類が育ちやすいため、身がやわらかいと評判です。
「うちは冷凍ではなく、地のハモを使っちょるけん、ふっくらした食感が自慢。鰹節と昆布出汁の自家製天つゆにつけてどうぞ」と林田さんはニッコリ。お好み柚子胡椒ならぬ「かぼすごしょう」(別売100円)をつければ、フレッシュな風味がほどよいアクセントに。かぼすも大分の名産品。「どこで買えるの?」とお客さんからよく聞かれるそうです。
というわけで、いよいよ“キモ食い”。3種オーダーしました。
「うちは焼き鳥さんやないけど、スタッフが一本ずつ丁寧に串を手刺しで仕込んでいます」
写真右から「砂ズリ」250円、「鶏肝」塩・タレ 各250円、「鶏ハツ」250円。
「世間の物価高に負けず、従来のボリュームからできるだけ減らさないで、お安く提供しています。正直ちょっと苦しいけど……それでもお客さんの喜ぶ顔のために」と林田さん。
「鶏肝」はタレをチョイス。焼き場で何度もタレをつけているので、しっかり染みて美味。肉質がいいからクサミも少なく、塩で食べれば素材の旨さをより一層感じられます。
「鶏ハツ」(心臓)は開かずそのまま火を通してプリップリの食感を実現。「砂ズリ」は大きめのカットで独特の歯ごたえ。
ふと、入口近くのショーケースに目が留まりました。なんと、日本各地から集めた約50種の地酒カップがズラリと並んでいるではありませんか。
カップ酒も50種ほどが並ぶと壮観!
地酒カップは1本600円〜。シェアや飲み比べも。
もちろん大分の地酒カップもあります。オススメは昔ながらの槽(ふな)しぼりで酒を醸した〈浜嶋酒造〉の特別純米酒〈鷹来屋〉。和歌山の純米吟醸酒〈紀土(キッド)-KID-〉や三重の特別純米酒〈るみ子の酒〉など人気銘柄もあり、どれにしようか迷ってしまいました。
店舗情報
店舗名:地魚屋台 ぜんちゃん
住所:大分県中津市島田352-9(日の出町アーケード内)
営業時間:17:00〜23:00(L.O. 22:30)
定休日:不定
TEL:0979-31-6002
〈居酒屋 ほりよし〉懐かしいおばあちゃんの味を再現「丸腸の唐揚げ」は必食
ラストは、約150種ものお酒を取り揃える〈居酒屋 ほりよし〉へ。大勢の宴会に適した長机の座敷席から、完全個室、カウンター席まで備え、出張者、観光客、地場企業のみなさんまで幅広い層に愛されています。
〈居酒屋 ほりよし〉の口コミを調べてみると「とにかく食べるべし!」と熱く推されているのが「名物丸腸唐揚げ」です。これまでの2軒は鶏のキモでしたが、“キモ食い”ならばこのキモも食べてみなければ!
「名物丸腸唐揚げ」638円。
店長の高塚慶郎さんいわく「自分のおばあちゃんがよくつくってくれた思い出の味。厨房の料理人さんに『なんとか再現できませんか』と頼んだ店一番の名物です」とのこと。
「新鮮さが自慢の丸腸です。時間がたつと牛脂のように固くなるけん、できるだけ10分以内で食べてほしいです」
醤油ベースの甘いタレが丸腸と驚くほどマッチし、思わず唸るほど。甘さの秘密は季節のフルーツ、4日間かけてつくられる秘伝のタレです。
最初はそのままシンプルに頬張り、途中からはレモンをかけてさっぱりと。口の中で丸腸がとろけ、噛むとプチッと肉汁が弾けました。異なる食感のハーモニーがクセになりそう。
こってりした口当たりにマッチするのは生ビール、大分麦焼酎、サワーなど喉越しスッキリ系のお酒です。
続いては鶏キモから「砂ずり」。おいしい芯の部分だけを使い、かたい皮は外しているんだとか。
写真右から「砂ずり」165円、「ハツ」165円。
人気ゆえ品切れになりがちな「ハツ」はメニュー表に載せていない裏メニュー。歯ごたえがよく、脂少なめ。カボスをかけてサッパリいただきます。
「きも」132円。
ふわふわ食感の「きも」は、しっかり染み込んだタレが絶品です。
中津の地酒〈耶馬美人〉と。
「うまさの秘訣は仕入先が複数あること。中津の鶏専門仲卸や、幅広い食品を扱う地場企業などから季節や日ごとに、常に新鮮なキモを入手するようにしています。仕入れだ時点ですでに新鮮ですが、クサミをなくすために一度洗ってから、ひとつずつ丁寧に串に刺します」
お酒は麦焼酎、日本酒、カクテル、ビールまで充実。地酒も豊富で、本格麦焼酎〈二階堂(にかいどう)〉はもちろん、国税庁鑑評会で日本一となった〈耶馬美人(やばびじん)〉(770円)も発見。後者は、麦焼酎業界では常識となっている「麹・掛ともに原料を100%麦にて醸す製法」を製造元の〈旭酒造〉が業界で初めて開発したことから“大分麦焼酎の元祖”とも呼ばれています。
料理担当の加未紫晶さん。
店舗情報
店舗名:居酒屋 ほりよし
住所:大分県中津市島田352-5(日の出町アーケード内)
営業時間:17:00〜23:00
定休日:不定
TEL:0979-24-7577
中津なら“キモ食い”を堪能できるかも? という目論見は大当たり。大分の地酒とともに、おいしい夜はふけていきました。
中津の新名物として“キモ食い”ブームに火がつく日は近い⁉
※価格はすべて税込みです。
Credit text & photo COLOCAL(マガジンハウス)
文・城リユア(mogShore)
写真・黒川ひろみ