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特集 5

ママが“しんけん”おもてなし。大分市・都町で大人時間を楽しむ

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「都町(みやこまち)に行こうか!」は大分県民にとって「飲みに行こうか!」と同じ意味――大分駅から徒歩約15分、〈ジャングル公園〉周辺一帯に広がる「都町」は、大分随一の歓楽街です。

商業ビルの中には大衆店から高級店まで飲食店がひしめきあい、ふたつの大通りはネオンや看板に彩られて実に華やか。路地裏にはディープな飲み屋さんが軒を連ねます。多くのビジネスホテルが隣接するため観光客、出張客、地場企業のオフィスワーカーら幅広い層の人々が今宵もこの懐の大きな夜のまちへと引き寄せられていきます。

そんな都町では8年前、スナック・クラブを営むママの有志たちが、まちの発展と治安向上を目指すべく「華都会(はなみやかい)」を発足させました。現在メンバーは13人(2024年2月時点)。ゴミ拾い活動や、警察と協力しながらのパトロール、客引き防止の呼びかけなどを続けています。

「華都会」の3人のママたちのお店を訪れ、都町や店への想いを聞いてみることにしました。読み終わったあと、きっとママたちに会いに行きたくなるはず。

〈momokA〉大分銘酒も飲み放題、生カボス絞り放題のコスパ&フレンドリーなスナック

まず扉を開いたのは、商業ビル「第5パルコ」にあるスナック〈momokA(ももか)〉。カウンターのほかテーブルが4卓、カラオケも楽しめるカジュアルなお店です。

オーナーママであり「華都会」の事務局長も務める佐藤理沙さんは、気さくでお茶目なキャラクター。初対面でも話しやすい笑顔で迎えてくれました。

都町にはパルコビルがなんと7つも。

さっそく地元の常連さんが店の魅力を教えてくれました。

「〈momokA〉をはじめ都町のスナックやクラブの多くは、安酒じゃなく、きちんといいお酒を提供してくれるんです。たとえそれが飲み放題コースであっても。大分といえば麦焼酎が有名やけど、〈momokA〉は本格焼酎『二階堂』も飲み放題。焼酎に限らず大分の銘酒を飲み比べしたい方は、ぜひ訪れてみては。」

大分名物の生カボスが絞り放題という太っ腹サービスも。

「麦焼酎に入れると、カボスの爽やかさが広がって合うんです。好きなだけ絞っちゃってください」と豪快に笑う理沙ママ。

9月頃には黄から緑に色づくカボス。黄色いカボスは汁の量が多い。

比較的安価で飲めるのも魅力。90分飲み放題(本格焼酎やブランデー、ウイスキーも飲める)・カラオケ付きでひとり5500円(ボトルをキープすればひとり4300円)。わかりやすい値段設定で、スナックに不慣れな女性でも安心して遊びに行けそう。

ゴルフが「引くほど上手」という〈momokA〉佐藤理沙ママ(年間100ラウンド、ベストは68!)。大分はゴルフ場が安いので、ゴルフ〜フグ料理〜都町コースをたどる観光客も多い。

理沙ママは「華都会」を通じて感じる「都町の課題」を次のように話します。

「大分駅周辺は、繁華街と歓楽街エリアがしっかり分かれているのが特徴なんです。それがウケて都町も賑わってたんやけど、その分お客さんの流れが分断されがちで、ひと昔前までは“ちょっと治安が悪くて怖いまち”“遊び人が行くまち”みたいなマイナスイメージがついていました。観光客も夜は知名度の高い別府に流れがちでしたね……」

しかし治安に関しては、2015年にまちなかに64台の防犯カメラが設置されたのを機に大幅改善。安心して飲める場所へと生まれ変わりました。このことをもっと多くの人に知ってほしいと理沙ママ。

理沙ママおすすめの〈都町屋台街〉。

「〈都町屋台街〉なんてしんけんおもしろいですよ。屋台が10軒くらいズラッと並んどるから、1杯+1品で全屋台を巡ったり。目標は近い将来、都町が『大分観光で行きたいスポットBEST10 』にランキングするようになること。魅力をどんどん伝えていきたいですね」

アニメの「ガンダムシリーズ」はすべて視聴済みな理沙ママのもとには、ガンダムグッズが集まってくる。「ガンダムトークなら任せちょきよ〜」。

いま理沙ママたち「華都会」は県庁とも協力しながら「都町おもてなしMAP」を制作中。各参加店には大分ならではのおもてなし特典を用意してもらい、今年2月のリリースを目指しています。

「〈momokA〉のおもてなし特典は大分・佐賀関の海藻『くろめ汁』を考えています。酔ったときに飲むと最高で、口の中に磯の香りが広がって落ち着くんよね〜。いつもは県外のお客様限定で最後にお出ししていますけど、このMAPを持参してきてくれた人にはみんなサービスしちゃん」

最近、地元の大学生と『若者に都町へ来てもらうにはどうすればよいか』をテーマにミーティングを開き、“昼カフェ”を実施することが決まったそう。

「2024年は都町のために新しいチャレンジができそうやけん、ワクワクしています」

店舗情報

店舗名:momokA
住所:大分県大分市都町3-5-25第5パルコ 1F
営業時間:20:00〜0:00
定休日:なし
TEL:097-537-2277

〈クラブ三清〉「都町だから残せたクラブ文化」を継承していきたい

〈クラブ三清〉長尾淳子ママ。

続いて訪れたのは、1958年創業の老舗クラブ〈クラブ三清(さんせい)〉。18年前に2代目オーナーママを引き継いだ長尾淳子さんは「華都会」の発起人メンバーであり、初代会長を務めた人物です。

淳子ママいわく、「着物は日本人のナショナルユニフォーム」。この日も上品な色香を放つ和装で取材陣を出迎えてくれました。

店は約50坪。創業当時から変わらぬゴージャスなシャンデリア、貴重な一枚板の壁、手彫りの欄間(らんま)、レトロなランプなどでオーセンティックに彩られ、中央のグランドピアノも存在感を放っています。

壁にはノエビアのCMで一躍有名になった画家・鶴田一郎さんの美人画や、淳子ママが神と崇める荒井由実さんの写真も。気品あふれるクラシカルな雰囲気は、いつかの再放送で観た昭和ドラマのワンシーンのようで、うっとり。

「いまの時代、これほどの広さとレトロな造りを併せ持つクラブはなかなか珍しいかもしれませんね。スクラップ&ビルドが繰り返される東京・銀座のような大都会の歓楽街では、古い店は大抵取り壊されるし、広い面積であるほど賃料も高くなりますからね……。都町だからこそ、創業時の面影をいまも色濃く残せているんです」(淳子ママ)

毎晩21時、22時、23 時からはピアニストによる生演奏(各30分)がスタート。セットリストは洋楽やジャズ、石原裕次郎ら懐かしの昭和歌謡など。ピアノに合わせて歌を披露するゲストもいるのだそう。

「60代、70代の方は、若かりし頃ダンスホールに通っていた方も珍しくなくて。広い店内を活かして、昔を思い出しながら踊られたり、女の子(※ホステスさん)とチークダンスをされています。一緒に来た若いお客さまに『踊りませんか?』とお誘いすると、最初はみなさん驚きますけどね(笑)。こうした昔ながらのクラブ文化を若い人たちに伝えていくのも、私たちの大切な仕事だと思っています」

ピアノはあるけどカラオケはない。“とにかく落ち着いて飲める安心安全なお店”とホテルに勧められ初来店する観光客も多いそうです。品格を重んじる淳子ママは「女の子たちには所作や言葉遣いなども厳しめに指導しています」とのこと。「でもまあ、お酒が入ればみなさんフランクになりますし、そこからはうるさくは言いませんけどね(笑)」

ところで8年前、どうやって「華都会」をつくったのでしょう?

「先代から店を引き継いで18年。当時シングルマザーで食べ盛りの息子を抱えていた私に仕事をくれたのが、この都町でした。恩返ししたくて、まず〈MEMBERS彩〉のママ・和田久美子さん(※次のお店で登場)にお声がけしたらご快諾いただき、次第に賛同メンバーが増えてきました」

コロナ禍では客足が一斉に遠ざかる大ピンチに。地元企業から取り寄せた消毒液をペットボトルに入れまちの全店舗に配るなど、メンバー一丸となり乗り越えました。

「コロナ禍が落ち着いたいま、都町をさらに盛り上げる策をみなさんと知恵を絞っているところです」

主な客層は出張中や地場企業のオフィスワーカー。もちろん観光客もウェルカムです。料金設定は滞在時間に関わらず(オープン〜ラストでも、30分間だけでも)1万5000円〜。別途ホステスさんが飲んだお酒は種類によってチャージされます。

淳子ママ一押しのお酒は大分麦焼酎〈いいちこ〉でおなじみ・三和酒類の〈安心院スパークリングワイン〉。安心院町のシャルドネを100%使い国内でも珍しいビン内2次発酵で製造されています。ANAのファーストクラスでも提供されていた名品で、辛口なのに飲みやすいと好評なんだとか。

「今春にはクラシックなイメージをもとにした2室を設け、昭和のクラブの雰囲気は残しつつもアップデートします。若いお客様にもぜひ伝統のクラブ文化に触れていただきたいので、SNS発信にも引き続き力を入れていきたいです」

店舗情報

店舗名:クラブ三清
住所:大分市都町3-5-23 JNビル1F
営業時間:20:00〜24:00
定休日:土・日曜・祝日(年末の土曜は予約にて営業)
TEL:097-536-0311

〈MEMBER’S 彩〉恋愛相談が得意なママがいる、昭和レトロなクラブ

最後に訪れたのは、クラブ〈MEMBER’S 彩(めんばーず さい)〉。〈momokA〉〈クラブ三清〉と同じ通りに位置し、オーナーママの和田久美子さんも「華都会」発足時からのメンバー。

「メンバーズ」と店名に入っているため一見(いちげん)さんお断りの会員制かと思いきや、初めてのお客さんもウェルカムとのこと。臆せず扉を叩いてみましょう。

賑やかなシャンデリア、棚に並んだ胡蝶蘭、座り心地のよい大きなソファなど、昭和の香りが残されています。

ボックス席とカウンター席のほか、VIPルーム2室も。

ちょうど久美子ママは出張中で不在でしたが、後日電話でお話できました。

「うちのホステスさんは長く働いてくれている女性が多いので、大分のいいところ、ディープな魅力をたくさん知っていますよ。オススメの旅先をぜひ聞いてみてくださいね」

席につくと自家製の日替わりオードブルと乾き菓子が運ばれてきます。この日は「手羽中の甘辛煮」。ほかにも大分名物の肉厚椎茸を使ったメニューなど、ご当地グルメが登場する日もあるよう。

写真左から〈西の星〉、〈銀座のすずめ 琥珀〉。

〈山崎12年〉など貴重なウイスキーもそろえるなど酒類も充実。特に大分生まれの本格麦焼酎を飲まずには帰れません。オススメは三和酒類の〈西の星〉。一般的な麦焼酎の多くは外国の小麦でつくられますが、こちらは大分県産の大麦〈ニシノホシ〉を原料に麹の技でじっくり醸しています。スッキリした香りとシルクのようになめらかな喉ごしが特徴。

八鹿酒造の〈銀座のすずめ 琥珀〉は、アメリカ・ケンタッキー州の蒸留所から取り寄せたバーボンウイスキーの樫樽に貯蔵した大分麦焼酎。ふくよかでスモーキーな風味に酔いしれて。

水割りに使用するミネラルウォーターは〈九州くじゅう連山 湧水〉でした。「名水百選」のひとつであり、大分県が誇る日本の名水です。

セット料金は、1テーブル6000円〜(チャージ込み)、種類によってはホステスさんが飲む酒代は別途です。

久美子ママが都町で働き続けて27年。景気のいい時、悪い時もすべて見てきました。「近年は華都会の取り組みも功を奏し治安がいい。すっかり安心安全に飲める夜のまちですね」と言い切ります。

「華都会メンバーでまちのゴミ拾いをしよると、若い男の子たちも私たちに続いて拾ってくれているのがうれしいですね。『こういう気持ちが大事なんよ〜。お願いしますね〜』とか言いながら、まちの雰囲気を少しずついい方向に変えてこられたんやないかなぁ。継続は大切。これからもゴミ拾いは続けていきたいです」

そんな久美子ママの得意技は「恋愛相談」。

「お客様の身の上話を聞くのが好きで話し込んでいたら、普通は他人になかなか言えないようなことまでお話してくださる方も……。『え、ここまで聞いちゃっていいの?』みたいな(笑)。『でもそこまで聞かせてもらったんやから、がっつり話し合おうよ』としっかり受け止めています」

そういえば〈momokA〉の理沙ママは「若者こそ都町のママに、人生相談をしに行ってみては? いろんな人たちを見てきて人生経験豊富やけん、本音で相談に乗ってくれると思いますよ。名付けて“母活”です(笑)」と話していました。

店舗情報

店舗名:MEMBER’S 彩
住所:大分県大分市都町2-5-26 エンプレイスビル5F
営業時間:20:00〜翌1:00
定休日:日曜・祝日
TEL:097-534-4000

安心して飲めるディープな夜のまちには、唯一無二の個性を放つすてきなママたちが待っています。おいしいお酒ととっておきの大分時間を楽しみに、次のTRIPでは都町にふらっと立ち寄ってみてはいかが?

※価格はすべて税込みです。

Credit text & photo COLOCAL(マガジンハウス)
文・城リユア(mogShore)
写真・黒川ひろみ

MIDNIGHTOITA