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特集 8

新提案!別府ナイトライフ「酒飲み」のためのモデルコース

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別府市のディープな酒場を「はしご酒」

JR別府駅を起点に徒歩圏内に酒場が集中する別府。まさに飲兵衛にとって理想のまちです。今回はそんな別府で「はしご酒」をとことん楽しめるモデルコースを提案します。ぜひ別府ならではの近くて熱い夜の時間を堪能してみてください。

醸造酒をテーマにした別府の入り口

まずは別府の入り口となるお店から。日本酒、ワインが好きなら、真っ先に訪れておきたい店。それが醸造酒に特化したスタンドバー〈Beppu Sake Stand 巡〉です。

壁、戸ともに可能な限りガラスを取り入れた開放的な造りになっています。

大分市内にある地酒専門店〈丸田酒舗〉の丸田晋也さんが手掛けるお店だからこそ、置いてあるお酒がどれも魅力的です。酒蔵と共同でつくり上げたオリジナルの日本酒をはじめ、ほかでは飲めない銘柄にも出合えます。また、初来店でも気軽に寄れる角打ちスタイルもうれしいポイント。営業時間が12:00から20:00までなので、早めの時間から飲みたいときにぴったりです。もちろん軽く一杯、という利用もOK。気に入ったお酒はお土産に買って帰ることもできてしまうのですから、酒飲みの理想郷といっても過言ではありません。

自家製のキムチは常時10種前後という多彩な品揃え。どれを選べばいいの?という人にはおまかせ盛りもありますよ。この日、キムチと合わせたのが、大分にある蔵元〈浜嶋酒造〉と〈丸田酒舗〉のコラボレーションで誕生した日本酒「鷹来屋 STRIPE」です。やさしい甘さで、すいすいと飲み進められました。

忘れてはならないのが、店長を務める梁原仙喜(やなはらそに)さんの存在。フレンドリーな接客、そしてお酒の確かな知識と提案が心地よく、ついつい長居してしまうという人も多いようです。ここで店長を務める以前には自身で韓国料理店を営み、今でも韓国料理家としても活動。そのため、おつまみには得意のキムチもラインナップしています。「魔法使いなの!?」と思うくらいに、用いる素材は季節ごとにがらりと変わるのに、梁原さんのキムチはどれもが記憶に残る味わい。日本酒にはもちろん、ワインにもバシッとハマるキムチ。ぜひお好みの酒と一緒に楽しんでみてください。

「うちでしか飲めないお酒が多いのは蔵元さんとの関係があるからこそですね。毎年、蔵元さんへお酒づくりのお手伝いに行きます。そうやって交流し、つくり手の人となりを知れば知るほど、お客様へ大切に届けたいと思うんです」

そんな梁原さんがグラスに注ぐお酒は、人の温もりが一段と感じられました。

梁原さんと〈丸田酒舗〉の丸田さんは同世代。これからの別府を思う熱い気持ちで意気投合し、この巡を立ち上げました。

店舗情報

店舗名:Beppu Sake Stand 巡
住所:大分県別府市北浜1-1-1
TEL:080-9291-6714
営業時間:12:00~20:00
定休日:水曜
Instagram:https://www.instagram.com/beppusakestand.jun/

ナチュール×タコスの新提案

日本酒で心地よくあたたまった足で向かったのが、巡から徒歩5分ほどの場所にある〈Beppu Hostel & Cafe Ourschestra(ウルスケストラ)〉。店主の南享吾さんは別府生まれ、別府育ち。開業以前は長年、東京で料理の世界に携わっていました。そんな南さんが別府に戻ってきて、最初に開業したのがイタリアン。そして同ビルの3Fが空いたので、ゲストハウスをスタート。やがて1Fも空いたので現在のウルスケストラを始め、料理もイタリアンの枠を飛び越えて多国籍の様相を呈すようになりました。

南さんはセンスと行動力の人。ゲストハウス&カフェを営むなかでスパイスカレーを提供してカレー好きの心を掴み、〈南インド会社〉というワインバーも姉妹店として開業します。

最近では、2023年12月にはナチュラルワインに特化した酒屋〈六寛堂酒店〉をオープン。トレンドをキャッチし、今の空気を、次々と表現していく南さん。別府におけるキーマンのひとりであることは間違いありません。

「ナチュラルワインは東京にいた頃に出合い、それからずっと魅せられていますね。もちろんこの店でも開業以来、提供してきました」という南さん。ワインは常時6種くらいのボトルが開いていて、グラスで気軽に楽しむことができます。

トルティーヤから自家製という、並々ならぬ情熱が込められた「タコス」は6種前後を取り揃えます。注文は2枚から。

夜のメニューはアラカルトスタイルです。「自分が好きなので、ずっとつくり続けています」と南さんが推すのが、なんとタコス。内容は日替わりで、その時々の食材を織り交ぜるのが南流です。ぜひ気になったナチュラルワインと合わせてみてくださいね。

2023年秋に1Fの客席スペースが拡張され、今まで以上にゆっくり食事が楽しめるようになりました。ホステルの宿泊客だけでなく、一般客にも開かれた空間です。

店舗情報

店舗名:Beppu Hostel & Cafe Ourschestra
住所:大分県別府市北浜1-6-11 坂本ビル 1F
TEL:0977-75-9392
営業時間:9:00~11:00、15:00〜22:00
定休日:不定
Instagram:https://www.instagram.com/ourschestra_beppu/

愛情までも包み込んだ餃子以上の餃子

日本酒、ナチュラルワインと続いて、いい感じに酔いも回ってきたところで、ちょっとしっかり目の食事がほしくなってきました。そこで立ち寄ったのが、別府の夜を語る上で欠かせない餃子の名店〈小厨房 香凜 (かりん)〉です。

餃子は食材本来の味を生かすのがリンさんのこだわり。アルコールは紹興酒や中国のビールなどが揃っています。

リンさんのニックネームで親しまれている店主の郝玲(ハオリン)さんは中国出身で、大学進学を機に日本へと留学。最終的には別府大学文学部に進学し、大学院まで進んだ後、修士号を授与されました。そんなリンさんが餃子の店を始めるきっかけになったのが、別府への愛だったのです。

「このまちで暮らすほどに、別府のことが好きになっていって。出会った人々はみんな親切で温かく、別府を離れたくなくなりました。私にできることはなんだろうと考えたとき、閃いたのがおばあちゃんの餃子だったんです」と微笑むリンさん。大学在学中、ゼミのクラスメイトたちに餃子を振る舞う機会があり、その際に毎回、全員から大絶賛されたそう。「きっと、餃子なら喜んでもらえる」と考え、2014年、この路地裏に店を構えました。

餃子は生地から餡まですべて手づくり。そして仕込みから調理まで、すべてをひとりでこなします。

日替わりの餃子はなんと常時10種もの品揃え。季節に応じて地元・大分の食材がふんだんに取り入れられているのが特徴です。例えばこの日の餃子には合鴨や貝柱、牡蠣、なんとロバまでありました。

大学時代に谷崎潤一郎の作品を研究し、その美しい文体から、日本の美について理解を深めたというリンさん。

「彼の作品は文章ではあるけれど、その言葉の連なりは、まるで美しいメロディのようなんです。私の餃子もそうあればいいなと思い、提供する順番にも気を配っています。ひとつひとつ種類の違う餃子でも、ご注文されたすべてのお料理で、ひとつの作品にしたい。気持ちいい余韻が『また食べたいな』という思いにつながればうれしいですね」

注文が入ってから皮をのばし、具材を包んでいくリンさん。目の前で包まれていく餃子はひとつひとつがやや大ぶりで、なかには“肉まん”サイズのものもあります。手間を惜しまず、具材によって焼き、蒸し、揚げというように調理法を変えるため、すべての餃子が、餃子という枠を超えて一品料理のように思えてしまいます。曰く、「餃子という料理ではなく、餃子という調理法だと思ってください」。

「よく、これだけ種類があると大変でしょって言われるんです。でも、私にとってこれはごく普通のことで。おばあちゃんは家族みんなが食べたい餃子を嫌な顔ひとつせずにつくり分けていましたから」

リンさんが包んでいるのは、餃子の形をした“愛情”なのです。

リンさんの気さくな人柄も餃子の味にあらわれています。全12席と小箱の店なので、予約がおすすめです。

店舗情報

店舗名:小厨房 香凜
住所:大分県別府市元町10-1
TEL:090-9589-9545
営業時間:18:00~22:00頃
定休日:不定

別府の締めに覚えておきたい第一候補

いい感じにお腹も満たされたので、そろそろ締めることに。〈ヌードル ファクトリー ライフ〉は締めにラーメンが食べたいときに覚えておきたい人気店。創業時は豚骨ラーメンと担々麺の2本柱でしたが、現在はメニューが増え、醤油と塩のラーメンのほか、数量限定で冷やしラーメンも提供します。

福岡発の人気ラーメン店で修行を積んだ山本さん。名店仕込みの技術に裏打ちされた一杯に舌鼓を打ちましょう。

特に締めで人気があるという「醤油」は、大分生まれの地鶏「おおいた冠地どり」の鶏ガラで引いた出汁に、大分産の醤油ダレを合わせたスープがあとを引くラーメンです。そのスープに合わせるのが自家製の麺。全粒粉を練り込んだ風味豊かな麺は、啜り心地がよく、スープとの絡みも文句なし。

店主の山本智裕さんは「別府も九州なので、基本的には豚骨ラーメン文化圏ですが、うちでは醤油や塩のラーメンもリピーターが多いですね。“大分ラーメン”という言葉がない分、楽しみながら、自由にラーメンをつくっています」と和かに教えてくれました。

澄んだスープが食欲をそそるラーメン「醤油」。大盛りは+100円。

これまでにヴィーガン専用のラーメン、ジビエを使ったラーメンといった限定麺でも、山本さんはその表現力を最大限に発揮。ちなみにメニューには、ラーメン以外に、おつまみ用のチャーシューや水餃子もあり、ラーメンだけのつもりで来店したのに、ついついビールをもう一杯、という人も多いそうですよ。

丼の形のネオンが目印です。

店舗情報

店舗名:ヌードル ファクトリー ライフ
住所:大分県別府市元町5-8
TEL:0977-51-4054
営業時間:11:30〜13:30(LO)、19:00〜24:30(LO)
定休日:月曜、火曜のランチ
Instagram:https://www.instagram.com/noodlefactory.life/

蒸留酒をもっと気軽に

ラーメンも食べて、腹ごなしがてら別府のまちを散策し、宿に戻ろうとすると、巡の梁原さんに教えてもらった姉妹店〈Beppu Spirits Bar LAMP〉の前を偶然、通りかかりました。「もう一杯だけ……」と、気がつけばお店の中へ。巡は醸造酒をテーマにしたお店ですが、LAMPは蒸留酒を扱うバー。九州が世界に誇る焼酎をはじめ、ジン、ウイスキーなどをとことん満喫できます。コーヒーもサイフォンで抽出し、エスプレッソを使用したカクテルも楽しめます。もちろんコーヒーで締めてもOK。

ペンダントライトで幻想的な雰囲気を演出。

巡同様、この店も〈丸田酒舗〉による経営。2代目・丸田晋也さんは「酒好きだけが通うバーにしてしまうよりも、もっと気軽に使ってもらえるような店にしたかったんです。カフェと思ってやってきたお客様が、コーヒーを飲む感覚で良質な蒸留酒に触れる。そういうきっかけがつくれればうれしいですね」と教えてくれました。

過ごしやすい季節ならテラス席で飲むのも気持ちがいいですよ。

おすすめを、というオーダーに、出してくれたのが〈常徳屋 JAPANESE MONKEY GOLD〉でした。二条大麦を用いて仕込んだ大分麦焼酎の原酒をおよそ13年かけて熟成させ、カルヴァドス古樽でさらに2年熟成させた麦焼酎です。れっきとした焼酎なのですが、その味わいはウイスキーを彷彿とさせ、優雅で複雑な風味に思わずニヤけてしまいました。

「より蒸留酒をカジュアルに体感してもらうためにソーダで割ってお出ししているのですが、本来の味わいにも触れてもらいたいので、少しだけストレートもお出しするようにしているんです」

〈常徳屋 JAPANESE MONKEY GOLD〉は日替わりケーキのひとつ、「半熟バナナのケーキ」と合わせてみました。

味の本質を教えてくれるグルメな提案。再びエンジンがかかってしまい、思わず杯を重ねてしまいました。

店舗情報

店舗名:Beppu Spirits Bar LAMP
住所:大分県別府市北浜1-10-9
TEL:080-2554-6382
営業時間:19:00〜23:30(LO)
定休日:水曜
Instagram:https://www.instagram.com/beppuspiritsbar.lamp/

音の湯船に全身で浸かれる別府の出口

すっかりテンションも上がり、結局、もう1杯だけ飲むことに。最後に立ち寄ったのが〈TANNEL〉です。ここは看板のないリスニングバー。正確には頭上に屋号を記したサインはあるのですが、知っている人しか見つけられません。

恐る恐る、そのドアを開けると、すぐに音楽に包み込まれるような感覚をおぼえます。“音浴”とでも表現したくなるような心地よさです。音の発信源は、店の一番奥。イギリスメイドのスピーカー〈タンノイ〉でした。

敷居が高そうに見えるファサードですが、ひとたびドアを開ければ、極上の音が待っています。

「もともと別の場所でレコードバー〈the HELL〉を営んでいたんです。そちらがちょっと若者寄りのカジュアルな店なので、よりシックな大人の空間をつくりたくて」という店主・深川謙蔵さん。〈TANNEL〉はこのスピーカーありきの店。空間づくりにおいてもスピーカーを起点にすべてを決めていったといいます。

シーンとした静寂のなかで、深川さんがひと度、レコードに針を落とせば、物語が始まります。ふと流れてきたharuka nakamuraに思わず涙ぐんでしまったのもいい思い出です。

カクテルに詳しくなくても、そのときの気分にぴったりな一杯を深川さんがおまかせで用意してくれますよ。

「締めに来ました」と伝えると、深川さんは「アイリッシュコーヒーなんてどうでしょう」と提案してくれました。ほろ苦いコーヒーのフレーバーに、はしご酒で飲んだくれた体がゆるやかに解きほぐされていきます。

実は〈TANNEL〉では、週末の朝限定(※予約優先)で和洋のモーニングを提供。その味が評判を呼び、今では予約が取れないことも。

おんせん都市型音楽祭「いい湯だな!」の主催者の顔も持つ深川さん。別府とミュージシャンをつなげる活動にも力を注いでいます。

今日は幸い金曜日。別れ際の挨拶は、もう決まっています。

「おやすみなさい。じゃあ、また後で」。

店舗情報

店舗名:TANNEL
住所:大分県別府市北浜1-12-2
TEL:なし
営業時間:20:00〜24:00(土日月は8:30〜11:30)
定休日:月曜の夜、不定
Instagram:https://www.instagram.com/tannel_beppu/

最終的に6軒をはしご酒した別府の夜。別府というまちは物理的な距離だけではなく、精神的な距離も近いんだなと実感しました。「どこかおすすめはありますか」と聞けば、メモしきれないほど、お店を教えてくれたこともしばしば。今、巡の梁原さんが言っていた「別府を楽しんでもらい、また来てくれるのが一番うれしい」という言葉を噛み締めています。次はいつ別府に来よう。さっそく旅の計画を立てなくては。

Credit text & photo COLOCAL(マガジンハウス)
文・山田祐一郎
写真・大塚淑子

MIDNIGHTOITA