特集 10
うなぎや鮎に地酒。水郷・日田で味わい尽くす、おいしい夜旅
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江戸時代に幕府直轄(ちょっかつ)の天領として栄え、西国筋郡代(さいごくすじぐんだい)が置かれ、古くから九州の交通の要衝として知られる日田市。大分や福岡空港からの所要時間は車で約1時間半とアクセス抜群で、国内外から訪れる人も増えています。
そんな日田の魅力は、「水郷(すいきょう)」と呼ばれるほど豊かで美しい川や里山。そして自然が生み出すおいしい食材の数々。かつての天領地の面影を今に残すまち並みと、夕暮れから夜にかけて見られる灯りのともった風景、地酒とともに味わう絶品料理は、最高の旅を演出してくれるはず。今回日田を存分に堪能できる、夜にこそ巡りたいスポットをご紹介します。
暮れゆく三隈川とともに味わう。〈うなぎ鷺邸〉の絶品料理
日田市の中心部を流れる「三隈川」。三隈川とは九州一の河川「筑後川」の上流にある日田のみで呼ばれている通称。豊富な水量と広い川幅を活かして行われる鵜飼や屋形船は日田が誇る風物詩です。
〈うなぎ鷺邸〉の前、三隈川沿いの散歩道からの眺め。美しい夕暮れとともに日田の夜旅のスタートです。
そんな日田のシンボルともいうべき、三隈川を眺めながら食事を楽しめるのが〈うなぎ鷺邸(ろてい)〉。1943(昭和18)年に建てられた歴史ある木造建築の店内からは、三隈川や川越しに広がる雄大な山々などの大パノラマが望めます。
店名の由来でもあり、幸運の前兆を知らせる鳥といわれる鷺(さぎ)。お店を見守るかのように、川沿いまでやってくるそう。
窓一面に広がる三隈川を眺めながら、こだわりの料理や地酒を味わえる。
窓を開けると川や風のせせらぎが。季節や時間により刻一刻と移り変わる景色は見飽きることがありません。
地元の人たちが「日田で一番!」と太鼓判を押す景色とともに味わいたいのが、店名にも刻まれている、うなぎ料理。とくに人気なのが「水郷かばせいろ」。鹿児島県大隅産の厳選されたうなぎ、タレには江戸時代から日田で醤油づくりを行う〈マルマタ醤油〉の醤油を使用。背開きにしたうなぎを地焼きにすることで、パリッとした皮の食感と香ばしい風味に。「せいろ蒸しは、一般的にうなぎとごはんを一緒に蒸すのですが、〈うなぎ鷺邸〉では、ごはんのみを蒸し、その上に焼きあがったばかりのうなぎの蒲焼をのせています。だから『かばせいろ』という名前なのですが、ごはんを一緒に蒸すと、うなぎがやわらかくなりすぎてしまうんです。食べやすく、味わいや食感も楽しんでもらえるように、調理法にもこだわっています」と料理長の西田弘喜さん。
「水郷かばせいろ」一尾4950円、特上7150円。せいろで蒸したタレごはんの上に、蒲焼を後のせした鷺邸オリジナルの人気メニュー。上品な朱色のせいろは船大工さんに依頼して制作してもらったという特注品。
白焼きとメインを選べる〈うなぎ鷺邸〉のおすすめコース「白焼きと水郷かばせいろ」上 6050円、特上7700円。骨せんべい、鰻ざく、茶碗蒸し、肝吸い、お漬物がセットに。白焼きが映える器は、日田で約300年受け継がれてきた民陶〈小鹿田焼(おんたやき)〉を使用。
鮎の産地としても有名な日田市。通年で提供することを見越して、夏の時季に多めに収穫。新鮮なうちに真空冷凍しているそう。6〜7月が旬といわれていますが、〈うなぎ鷺邸〉ではシーズンを問わず、味わえることから、名物の鮎を目当てに遠くから通うお客さんも多いのだとか。
「鮎の塩焼き」990円。三隈川のきれいな水で育まれる鮎は大きく、肉厚でジューシーな身がたっぷり。同じく日田にある蔵元、井上酒造が醸す、吟醸酒〈寒山水仙〉とともに味わって日田づくしの夜を。
店舗情報
店舗名:うなぎ鷺邸 Rotir
住所:大分県日田市隈2-3-16
TEL:0973-28-6088
営業時間:11:30〜14:30(L.O.)、18:00〜21:00(L.O.)
定休日:不定休
Web:https://unagi-rotir.com/
地元民おすすめ!日田&大分グルメを一挙に楽しめる〈寳屋 本店〉
JR久大本線「日田駅」の駅前広場のすぐそばにある〈寳屋 本店〉。戦前の1930(昭和5)年に日田市内で小さなうどん屋としてスタートし、1934(昭和9)年に現在の場所に移転。1934(昭和9)年はJR久大線が開通した年で、まちの発展とともに日田の食文化を守り続けています。
旅の夜は「地元グルメを思いっきり楽しみたい!」という方には、大衆食堂〈寳屋(たからや)本店〉がおすすめ。同店の人気メニューであり、日田名物でもある「日田チャンポン」をはじめ、三隈川で育った鮎や大分名物のとり天、日田の郷土料理である高菜巻きなど、ここに来れば日田と大分のグルメを堪能できます。
地元の人から観光客まで愛され、日田グルメを語るうえで欠かせない〈寳屋〉。なかでも名物の「日田チャンポン」はファンが多く、「これを食べたら他のチャンポンは食べられない!」と県外から足繁く通う人も多いのだとか。
寳屋特製の「日田チャンポン」。おなかいっぱい食べてほしいという先代から続く思いが込められた大ボリュームがうれしい。
味やサイズのバリエーションもあるので好みや気分に合わせてチョイスを。(写真左から)「日田チャンポン 中」880円、食欲そそる「ホルモンチャンポン 並」1080円、オリジナルの辛味噌を使った「辛味チャンポン 中」920円。
シャキシャキに炒めた野菜と、大分県佐伯産のいりこでとったスープで味わうチャンポンは絶品。 地元のお客さんに聞くと、必ず1人1エピソード「寳屋さんのチャンポン」の思い出をもっているほど、長年愛され続けてきた一品です。
料理長を務める3代目店主の佐々木美徳さん。東京銀座で中華の料理人として活躍した腕前で日々おいしい料理をつくり続けています。
寳屋オリジナルの日田チャンポンおいしさの秘訣は、野菜を炒めること。「通常は野菜を煮込むことが多いのですが、寳屋のチャンポンはあえて炒めています。炒めた野菜を麺の上からかけることでシャキシャキとした食感が残り、旨みが汁に溶け込んでおいしくなるんです。長崎チャンポンとはまた違って、いりこ出汁を使った醤油ベース。もともとうどん屋だったので、そのスープを先代がアレンジしてつくった代々伝わる秘伝の味です」と佐々木さん。
大分といえば「とり天」700円。ムネ肉を使用する店が多いなか、〈寳屋〉ではモモ肉を使用することでやわらかくジューシーな仕上がりに。
さらに、日田グルメとしてチェックしたいのが、〈日田きこりめし〉。画家・牧野伊三夫さんが発起人として立ち上がった、日田の林業応援団体〈ヤブクグリ〉から生まれたユニークな弁当です。江戸時代から林業が盛んな日田のシンボルともいえる日田杉は、JR日田駅の駅舎にも使用されているほど、深いつながりをもっています。日田杉を使った商品づくりや、森林への興味を促す活動を行っている〈ヤブクグリ〉の活動の一環として2013年2月に誕生。今や県外でも注目を集める弁当になったのですが、それを実際に製造・販売しているのが〈寳屋〉なのです。
〈日田きこりめし〉1180円。日田杉の丸太に見立てた大きなごぼうを、付属の日田杉のノコギリで切りながら食べるというユニークさが話題に。味も本格的で、弁当の中身はすべて地元・日田や九州産の食材にこだわっています。
〈ヤブクグリ〉の弁当第2弾として、2023年にリニューアルされた「三隈川いかだすし」1200円。
かつて日田市で伐り出された木材は筏(いかだ)に組まれて筑後川を下り、有明海まで運ばれたことから筏に見立てた笹の容器を使用。三隈川のかっぱ伝説にちなみ、左には高菜、かんぴょう、きゅうりが入った「かっぱ巻き」、右には梅と長芋が入った酢飯を高菜漬けで巻いた日田発祥の郷土料理「高菜巻き」が。
店舗情報
店舗名:寳屋 本店
住所:大分県日田市元町13-1
TEL:0973-24-4366
営業時間:11:00〜15:00(L.O. 14:30)、17:00〜21:00(L.O.20:30)
定休日:水曜、元日
Web:https://takarayahita.com/
※日田きこりめし、三隈川いかだすし共に、ご予約は前日12時までにご予約ください。
ヤブクグリの活動や日田きこりめしについては、大分県の公式ポータルサイト『edit Oita』のこちらの記事もチェック!
日田に暮らすように泊まる。一軒家宿にゆったりと宿泊〈水処稀荘〉
JR日田駅から徒歩15分ほど、少し足を延ばすと、江戸時代にタイムスリップしたかのような風情溢れるまち並みが広がります。当時の商家や土蔵が多く残り、歴史的建造物群保存地区でもある豆田町は、日田を訪れたら立ち寄りたいスポットです。
旅の夜を彩る宿にぴったりなのが、豆田御幸通りの入口に佇む一棟貸しの宿〈水処稀荘(すいこまれそう)〉。日田に入って来るとき、帰るときに多くの人が訪れるこの場所に、「豆田町や日田の底上げができるシンボルのひとつになれるような存在として根づいていけたら」と話す、オーナーの瀬戸口剛さん。その言葉どおり、日田杉や日田土を使用し、日田の職人によりつくられた〈水処稀荘〉では、宿泊を通して地元の素材の良さや、職人の技術をダイレクトに体感することができます。
日が暮れると白壁にある、水処稀荘の文字がオレンジの光に照らされて影がぼんやりにじむ。情緒あふれるまちの風景に溶け込んでいます。
チェックインは宿に併設したギャラリースペース。瀬戸口さんが手がけるオリジナルグッズや、小鹿田焼の器やランプシェードなどは実際に購入することが可能。
小鹿田焼職人・坂本拓磨さんが手がける「ぐい呑み」各6000円(箱付き)。やわらかく温かみがあるデザインと使いやすさを兼ね備えた作品が並びます。
1日1組、一棟貸切で「暮らすように泊まる」がコンセプトの〈水処稀荘〉は、古民家を改装した二階建ての宿。ほかのホテルのようにシングルルームだけでなく、専用のキッチン、2つのベッドルーム、書斎まであり、まさに日田に暮らすかのように宿泊することができます。
1階はキッチンとリビング、2階は伝統的な日本の快適さに重点を置き、それぞれの良さを活かした二重性のある様式を考えた空間づくりにこだわっています。
「水処稀荘ブルー」と名付けられた深みのある色合いが印象的な2階のベッドルーム。壁は手作業で薄く何層にも塗装を重ねて仕上げています。
2階の奥には書斎スペースも。くつろぎと集中、その日の気分によって、どちらもかなう畳と土壁に囲まれた和の空間。
窓を開けると、目の前に広がるのは「花月川」。せせらぎの音を聞きながら1日を振り返ってみては。
〈水処稀荘〉を拠点に大分や福岡など九州各地へ旅行をする人が多いのだとか。
「お客さんの多くは2泊以上泊まり、長期滞在する方も多いです。2時間あれば九州のさまざまな場所へ行けるので、拠点にするのに便利なんです。僕も旅行が好きなのでいろいろな場所に行きますが、まるで家のように”拠点”として滞在できる宿は珍しいし、〈水処稀荘〉に訪れることを目的にして、そこから旅のプランを練るような、そんな唯一無二の場所になれたら」と瀬戸口さん。宿を拠点に地元食材を味わいながら、近隣の飲食店を巡ったり、日田散策を楽しんでほしいという思いから〈水処稀荘〉では、ミシュランビブグルマンに選ばれている〈和食工房
新〉の食事付きのプランも。
〈水処稀荘〉から50メートルほどの場所にある〈和食工房 新〉。もともと寺子屋だったという築150年を超える古民家を改装した店は、訪れる人をあたたかく迎えてくれます。
店主の和田新市さんは、福岡でイタリアンのシェフとして活躍した後、湯布院の人気旅館〈山荘 無量塔〉などで和洋折衷料理を学んだ凄腕。県内の旬の食材をふんだんに使用したコース料理は、和と洋の絶妙なバランスで目も舌も楽しませてくれます。
〈水処稀荘〉の宿泊プランには、〈和食工房 新〉の蕎麦や大分や日田の素材を使用した夕食を楽しめるコースも。店主の和田さんが太鼓判を押すのは日田で採れる旬の野菜。地元食材を活かした多彩なメニューを味わえます。※メニューは季節によって異なります
名物の「ざる蕎麦」(850円)。のど越し軽やかな手打ち蕎麦は、お酒のお供や旅の締めくくりにも。
店舗情報
店舗名:水処稀荘
住所:大分県日田市豆田町14-7
TEL:090-5368-7007(受付時間:10:00〜20:00)
定休日:無休
料金:1日2食付きプラン(朝食・夕食)1名1泊 14850円〜
※宿泊人数は大人1名〜6名まで
Web:https://suikomareso.com/
店舗情報
店舗名:和食工房 新
住所:大分県日田市丸の内町4-19
TEL:0973-24-1618
営業時間:11:00〜14:00、18:00〜22:00
定休日:水曜
Web:https://www.wasyokukoubou-shin.com/
大分の郷土料理や地酒、雄大な自然に小鹿田焼、そして旅の拠点となる、地元の人たちとの交流の場など、この土地でしか味わいない魅力が、まだまだたくさんあります。少し足を延ばして、訪れるたびに新たな発見がある日田のまちへ。まずは夜の旅から始めてみませんか?
※価格はすべて税込みです。
Credit text & photo COLOCAL(マガジンハウス)
文・大西マリコ
写真・黒川ひろみ